開発サイクルの短期化とコンテンツの高度化により、モバイルゲームのQA(品質保証)現場にはこれまで以上の負荷がかかっています。特にアップデートごとに実施される「スモークテスト」は、多くの工数と人的リソースを必要とするため、開発現場の生産性を阻害する大きな課題となっていました。
人気タイトル『ブルーロック Project: World Champion』をはじめ、数々のヒット作を手がける株式会社ルーデルも、同様の課題を抱えていました。この状況を打開するため、同社はPolyscapeが提供するAI自動ゲームQAソリューション『PolyQA』を導入。スモークテストにかかる作業時間を大幅に削減し、よりクリエイティブで付加価値の高いQA活動へと移行する第一歩を踏み出しました。
今回は、この取り組みを推進された株式会社ルーデルの佐々木 淳一様、吉永 辰哉様、半沢 匠様と、『PolyQA』を提供するPolyscape代表の島田 寛基にお話を伺いました。
インタビュイー紹介
株式会社ルーデル
モバイルゲームの開発・運用・運営を手掛ける。2024年で設立11期目を迎え、現在7タイトルを運営。人気IP『ブルーロック』を原作とした『ブルーロック Project: World Champion』など、勢いのあるタイトルを次々と世に送り出している。
- 佐々木 淳一様(ソーシャルゲーム事業本部 品質管理部 執行役員)
- 吉永 辰哉様(ソーシャルゲーム事業本部 データサイエンス部 執行役員)
- 半沢 匠様(ソーシャルゲーム事業本部 ゲーム開発部 執行役員)

株式会社Polyscape
AI自動ゲームQAソリューション『PolyQA』の開発・提供を行う。AIを軸とした高い提案力と開発力でビジネス課題を解決するAI/DX事業と並行して、自社ゲーム開発事業を手掛けており、その知見を活かした現場目線のソリューションに強みを持つ。
株式会社Polyscape 公式WEBサイト:https://polyscape.io/
AI/DX事業WEBサイト:https://aidx.polyscape.io/
- 島田 寛基(代表取締役 CEO)
インタビューサマリー
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<導入前の課題>
- アップデートのたびに実施する大規模なスモークテストに、人的リソースと工数が大きく割かれ、より高度な品質保証活動への注力が困難だった
<導入の決め手>
- ツールの提供だけでなく、業務への深い理解に基づき課題解決まで伴走してくれる姿勢と、AI技術の将来性を見据えた提案力と技術力に信頼が置けた
<導入後の効果>
- スモークテストの工数を約75%削減に成功し、想定以上の領域をAIに任せられる可能性が見えたことで、with AI時代の”攻めのゲーム開発”への進化を果たした
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「テストは人手がかかるのが当たり前」という常識を覆した、ルーデルのAI活用戦略
──今回『PolyQA』を導入された『ブルーロック Project: World Champion』はどのようなゲームなのかお教えください。また、どのくらいの頻度でアップデートされているのかもお聞かせください。
佐々木様: 人気漫画・アニメ『ブルーロック』のIP(知的財産)を活用したモバイルゲームです。プレイヤーがトレーニングモードで選手を育成し、自分だけのチームを編成して他ユーザーと競うのが基本的なサイクルになります。特に育成パートはランダム性が高く、試行錯誤を重ねながら強い選手を育てる楽しさが特徴です。
リリースから約2年が経過しましたが、現在も月に1〜2回のペースでアップデートを継続しており、高い開発スピードを維持しています。
──月に1〜2回というハイペースな開発を支える中で、品質保証(QA)の現場ではどのような課題があったのでしょうか。
佐々木様: 最大の負担は、アップデートのたびに実施する「スモークテスト」でした。これはゲーム全体の基本動作に不具合がないかを確認するテストで、iOSとAndroidそれぞれに1,000項目以上のテストケースがあります。
1回のアップデート業務のうち約2割を占める工程を、8名ほどのチームで数時間かけて手動で実施していました。
時間とコストの面で大きな負荷がかかるうえ、手作業である以上ヒューマンエラーの可能性を完全に排除することはできません。担当者の経験やスキルによって品質にばらつきが生じることもありました。
品質管理部/ブルーロック担当QAチームとして「当該バージョンのアプリ全般の動作品質が担保できました」と自信をもってサインオフし、リリースプロセスに進むために欠かせない工程でしたが、その重要なプロセス自体が開発のボトルネックになっていたのが実情です。
──その課題を解決するために、どのような取り組みをされていたのでしょうか。
吉永様: 当時は「テストは人手がかかるのが当たり前」という業界全体の共通認識がありました。コストがかかることは理解していましたが、ゲームの仕様が複雑なため自動化は難しく、仕方がないと考えていた部分もあります。
一方で、社内ではLLM(大規模言語モデル)を活用して何かしら業務を変革できないかを検討し始めていた時期でもありました。LLMで解決できるものはないかと模索していたことが、結果的に『PolyQA』導入の大きなきっかけになりました。

トライアルで確信した“将来性”。目先の成果だけでなく、複雑な工程の自動化まで見据えた決断
──AI活用を模索する中で、『PolyQA』はどのような経緯で知ったのでしょうか。また、最初にどのような印象を持たれましたか?
吉永様: 弊社の投資部門から「興味深い技術を持つ企業がある」と紹介されたのがきっかけでした。
多くのAIツールは「LLMのモデルをツールに搭載した」で留まる印象ですが、Polyscapeさんは「活用ナレッジ+それを実現するためのLLMツール」というノウハウも含めた価値を提供しているので、自社でLLMを使うだけではできない領域まで到達できると感じました。
さらに、Polyscapeさん自身がゲーム開発を手掛けていることも強みに感じられました。現場理解と技術力の両立が感じられ、安心して任せられると判断し、無料トライアル(PoC)の実施を即決しました。
島田:私たちの目的は、ツールを導入することではなく、お客様の業務インパクトを最大化することにあります。自らもゲーム開発を経験しているからこそ、ツール導入だけでは解決しない課題があることを理解しており、現場に寄り添って伴走することを大切にしています。
また、やみくもにAIを使うのではなく、「AIで解決すべき領域」と「コードで実装した方が効率的な領域」を明確に見極めたうえで、最適な手段を提案しています。こうした柔軟なアプローチも、我々の強みだと考えています。
──トライアルではどのような成果が得られましたか? 本導入に至った決め手を教えてください。
吉永様: 無料トライアルでは、ゲーム開始からチュートリアル攻略、チュートリアル終了までを自動で走行するオートプレイボットを開発いただきました。チュートリアル部分の自動化に、すぐ成果が現れたことが印象的でした。正直、もう少し調整やトラブルがあると思っていたのですが、想定以上にスムーズに動作し、良い意味で驚かされました。
ただ、導入を決めた理由は短期的な成果だけではありません。トライアルを通じて、「この技術なら、より複雑な工程も自動化できる」という将来性を確信できたことが大きなポイントでした。
佐々木様: 私も同じ意見です。これまでUIUXベースであったりコードベースであったりノーコードであったり…様々な「テスト自動化ツール」を試したものの期待通りの成果が得られず、自動化の実現に難航してきた経験があり、更新速度が速いモバイルゲームのテスト自動化は特にハードルが高いと感じていました。
しかし『PolyQA』は、SDKを基盤にLLMを組み入れた全く新しいアプローチを取っており、「これならこれまで越えられなかった壁を突破できるかもしれない」という期待をトライアル実施当初から抱いていました。
──開発部門の視点から見て、導入のハードルはいかがでしたか?
半沢様: 正直、非常に低かったです。一般的に外部ツールを導入する際は、開発チームに大きな工数が発生し、メンテナンス負担への懸念から反対の声が上がることもあります。
ですが『PolyQA』はSDKを組み込み、必要箇所にタグを付ける程度の作業で導入できました。これはPolyscapeさんがUnityという我々の開発エンジンを深く理解しているからこそだと思います。おかげで現場のエンジニアからも抵抗がなく、スムーズに導入を進められました。
島田: 私たち自身がUnityを用いてゲーム開発を行ってきた経験が大きいです。担当エンジニアも開発現場を熟知しており、その知見をもとに、実務に即した提案や実装を行うことができています。

▲PolyQAが導入された『ブルーロック Project: World Champion』
スモークテスト工数を75%削減!8人体制から2人へ、劇的な業務効率化を実現
──『PolyQA』導入後、スモークテストの工数にはどのような変化がありましたか? 定量的な成果を教えてください。
佐々木様: これまで8名体制で数時間を要していたスモークテストが、現在はわずか2名で対応できるようになりました。単純計算で約75%の工数削減となり、月単位で換算すると、約3人月分の作業時間を削減できたことになります。
これを実現できた理由は、『PolyQA』が一度実行するだけで高精度にスモークテストの全領域を自動でカバーできる点にあります。エラーを検知した場合には、該当箇所のエラーログやスクリーンショットを自動取得して提供してくれるため、テスト担当者はスモークテストを『PolyQA』に任せることで、より高度な確認作業や改善提案に時間を割けるようになりました。結果として、品質の担保と効率化の両立を実現することができました。
──削減された時間は、どのような業務に活用されていますか。
佐々木様: 削減された時間は、より品質を高めるための施策や、効率的なテストプロセスの検討に充てられています。単なるコスト削減にとどまらず、アプリケーションの品質価値の向上に対しての取り組みに多くの時間を使えるようになった点は非常に大きいと感じています。
──導入効果は他のゲームタイトルや他部門にも波及しているのでしょうか??
半沢様:もともとルーデルのゲーム開発はフレームワーク化されており、他タイトルへの横展開がしやすい構造になっています。
『PolyQA』でのスモークテスト自動化においてもその考え方に合わせ、Polyscapeさんと相談しながら、新規タイトルへの横展開を想定したフレームワークで構築しました。その結果、『ブルーロック』で成功した自動化の仕組みを、現在開発中のタイトルにもスムーズに導入できています。
島田: 開発初期から半沢さんと密に連携させていただいたおかげで、「ルーデル様のゲーム開発現場にどう最適化するか」を意識して設計することができました。ツールを提供して終わりではなく、まさに共同開発のような形でプロジェクトを進められたことが、想定していた以上の成果につながった要因だと思います。
吉永様: 半沢がお伝えしたように、『ブルーロック』での成功事例は他部門にも非常に良い影響が広がっています。QAチームで「工数を約75%削減できた」という実績が社内で共有されたことで、他部門でもAI活用への関心が一気に高まりました。
「自分たちの業務にもAIを取り入れられないか」といった声が各部署から上がり、社内全体のDX推進のムードが加速しました。テスト業務は、AI導入の最初の成功事例として非常に良い入口になったと感じています。
最初の3ヶ月で動くプロトタイプを完成させ、そのうち初期の半月は要件定義に充てました。残りの2ヶ月でApp側の実装を行い、最後の1ヶ月で調整・仕上げを行うというスケジュールで進めました。

当初の想定を良い意味で裏切られた。テストケース設計までAIに任せる未来への期待
──プロジェクトを通じて、Polyscapeの開発力やサポート体制をどのように評価されていますか?
吉永様: LLMの新しい技術を常にキャッチアップしながらも、技術を「どうビジネスに実装するか」という視点をしっかり持っている点が非常に優れていると感じます。こちらの要望や相談にも迅速に対応してくださり、技術力とビジネス理解の両面で高いレベルで噛み合っている印象です。
佐々木様: 開発力という点では、まさに業界の最先端を走っていると感じます。例えば、簡単な指示(プロンプト)を出すだけでAIエージェントが自律的にデバッグを進めてくれる機能には、「自分たちの仕事がAIに取って代わられるかもしれない」と感じるほどの未来と技術の進化を実感しました。サポート面でも、Slackで常時コミュニケーションを取りながら、週次のミーティングで密にキャッチアップできる体制が整っており、単なるツールベンダーというより「一緒に走るパートナー」という安心感がありますね。
島田: 吉永様や佐々木様が未来を感じてくださった背景には、当初の課題解決に留まらない、より先進的なAI活用の研究開発に踏み込めたことがあります。
例えば、AIが自らテストケースを考え、ゲームを操作し、結果を評価する自律型のテスト機能『AIアドホックエージェント』です。
これは「考えるAI」「操作するAI」「評価するAI」が連携し、従来人海戦術に頼っていたフリーテストのように、ゲーム内を網羅的に探索して不具合を発見します。人間では想定しきれない操作からバグを発見できる可能性を秘めています。
さらに、人間の目視でしか発見が難しかった画像の乱れといったビジュアルの異常を検知する『Watcher』機能もその一つです。こちらは、ルーデル様からご提供いただいた実際のバグ画像を基に、LLMをファインチューニング(追加学習)させることで、AIに「いつもと違う状態」を認識させています。これは他社ではほとんど見られない、非常に高度なアプローチだと自負しております。
──導入から1年が経ち、当初の想定を超える成果が出ているとのことですが、今後の『PolyQA』に期待することを教えてください。
吉永様: 当初は「最終的には人の手が必要になるだろう」と思っていましたが、その想定は良い意味で覆されました。今では、これまで人間にしかできないと考えていたテストケース設計やビジュアル異常検知などの領域まで、AIに任せられるのではないかと感じています。これからの進化が非常に楽しみです。
島田: 私たちとしても、まだ多くの構想があります。オートプレイの精度向上をはじめ、異常検知の高度化、バグトラッキングシステムとの連携強化、クラウド環境での端末検証など、QAプロセス全体の最適化を目指しています。
将来的には、QAにとどまらず、ゲーム開発全体をAIで支援する世界を実現したいと考えています。
こうした未来を実現していく上で、ルーデル様のようにAIに対して前向きで、リスクを恐れずに挑戦するカルチャーを持つパートナーの存在は非常に心強いです。そんなルーデル様だからこそ我々もよりイノベーティブでインパクトを出せる可能性がある踏み込んだ提案ができ、プロジェクトをスピーディーに進めることができています。

