半年で実現した「AI調香師」開発。Polyscapeが金熊香水の事業課題解決に貢献した伴走術

株式会社ピノーレは、2017年12月、長野県諏訪郡富士見町・八ヶ岳南麓の自然豊かな地に、香水・香粧品の研究所を併設した小さな工場を設立しました。八ヶ岳を拠点に、活き活きとしたものづくりの流れと空間を生み出すことを目指しています。また、香り製品の研究・開発を通じて地域と結びつき、日本各地の特産の花や果物を活かした製品づくりや、地元のデザイナーやクリエイターとの協業を進めることで、地域社会に貢献したいと考えています。

「推しキャラクターにぴったりの香水を、自分の言葉でつくれる」そんな体験を実現したのが、香水ブランド「金熊香水」が開発したAI調香師「八峰コロン」です。
専門知識がなくても香水づくりを楽しめるシステムとして注目を集める本サービスの裏側には、感性をデータ化し、抽象的な“推し”のイメージを香りへと変換する、極めて高度な技術的挑戦がありました。
本記事では、開発パートナーであるPolyscape社との協業を通じて、半年という短期間でAI調香師を形にしたプロセス、そこから得られたビジネス上の成果、そして香りづくりの未来を見据えた新たな構想について紹介します。

香水をもっと身近に。理想と現実を隔てていた“専門性の壁”

──まず、貴社の事業内容についてお聞かせください。

頭金様:当社は、10年以上にわたり香水に関する事業を手がけており、特に小ロットでのオリジナル香水開発に注力しています。これまでに、自社で18種類のベース香料を開発し、多様な香りの組み合わせを可能にする体制を整えてきました。
近年は、お客様自身が香りをブレンドして楽しみたいというニーズが高まっており、専門的な知識がなくても香水づくりを楽しめる仕組みが必要だと感じていました。


──そうした体験を実現する上で、どのような課題があったのでしょうか。

頭金様:調香は専門性が高く、理想の香りをつくるには高度な知識が求められます。実際、当社でもベース香料の開発に3年を要しました。
また、「推しキャラクターのイメージに合う香水をつくりたい」という要望も増えているのですが、抽象的なイメージを香りに変換するのは容易ではありません。既存のサービスは上級者向けのものが多く、初心者の方には使いづらいという声も寄せられていました。

課題解決の手段としてのAI調香師構想

──そうした課題に対し、AIの活用を検討された背景についてお聞かせください。

頭金様:ニーズの多様化に伴い、香水づくりのハードルを下げるには、人手だけでは限界があります。特に「推しキャラクターをテーマにした香水」のように個別性や熱量の高い要望に、すべて個別対応するのは現実的に難しいというのが実情でした。
そこで、お客様が「推し」のイメージを言葉で伝えるだけで、AIが香りのレシピを提案してくれる仕組みがあれば、より多くの方に香水づくりを楽しんでいただけるのではないかと考えました。

──AI調香師の開発パートナーとして、株式会社Polyscapeを選ばれた理由を教えてください。

頭金様:当社にはシステム開発やAIに関する知見がなかったため、信頼できる開発パートナーを探していました。そんな中、知人に相談したところ、Polyscapeの島田さんをご紹介いただいたんです。実際にお会いしてみると、非常にロジカルでわかりやすいご説明に加え、当社がふわっとした課題や構想をお伝えした際にも、意図を的確にくみ取り、整理・言語化してくださったことで「この方なら安心してお任せできる」と強く感じました。そこから、正式に開発パートナーとしてご一緒することを決めました。

▲受注前の初回提案にて1回のヒアリングで概況を整理

Polyscapeとの共創でハイスピード開発を実現

──開発はどのようにスタートし、期間はどの程度かかったのでしょうか。

頭金様:Polyscapeさんとの打ち合わせ後、すぐに開発がスタートしました。初期段階では将来的な構想まで含めて共有しながら、まずは実装可能な範囲に機能を絞り込んで段階的に開発を進めていく方針を取りました。結果として、開発開始からサービスのリリースまでは約半年で、私たちが当初想定していた以上のスピード感で実現できました。

▲ スケジュール確認

最初の3ヶ月で動くプロトタイプを完成させ、そのうち初期の半月は要件定義に充てました。残りの2ヶ月でApp側の実装を行い、最後の1ヶ月で調整・仕上げを行うというスケジュールで進めました。


──短期間での開発が可能になった要因は、どこにあったとお考えですか。

頭金様:Polyscapeさんの柔軟で効率的な開発体制に加え、「Dify(ディファイ)」というツールの活用が大きかったと思います。週次ミーティングでは、開発中のプロトタイプを実際に操作しながら進捗を確認できたため、テキストだけでは伝わりにくい部分も視覚的に共有・判断することができました。これにより、当社も的確なフィードバックをすることができたため、Polyscapeさんとしても着実に開発を進められたと思います。 また、当社はシステム開発の専門家がいるわけではないのですが、Polyscapeさんは「このシートの黄色い欄だけ入力してください」というように、具体的かつ明確な作業指示を提示してくださいました。そのおかげで、私たちも迷うことなく対応でき、非常にスムーズに連携が進みました。開発期間がタイトだったにもかかわらず、期待以上のスピードで形にしていただき、感謝の気持ちでいっぱいです

▲ 金熊香水様が実際にご入力されていたシート

「推し」のイメージを香りへ。AIで実現する調香ロジックとデータ設計

──技術的には、どのような仕組みを構築されたのでしょうか。

島田:技術面で最も注力したのは、キャラクターの性格や世界観といった抽象的な情報を、香料の種類や配合濃度といった具体的なパラメータに変換するロジックの構築です。

開発初期には、AIがどのようにユーザーとの対話を進めていくべきかを明確にするため、フローチャートを用いて会話全体の設計を行いました。今回は自由に会話する形式ではなく、ユーザーに対して優先度の高い質問から順に投げかけていく設計とすることで、意図のブレを最小限に抑えつつ、香りの方向性を的確に導き出せるようにしています。

一般的なAIでは対応できないため、金熊香水様の知見をもとに専用のデータベースを設計し、AIが学習できる構造に整備しました。

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▲ 初回打ち合わせ時の質問フロー設計

ユーザーが入力したキーワードや選択項目から「推し」のコンセプトを抽出し、それをデータベースと照合することで香りのレシピを導き出す仕組みになっています。さらに、キャラクターの世界観をより的確に反映させるために、言語情報と香料の対応関係をマッピングしたシートも作成しました。

こうしたプロセスでは、数百万通り以上の香料の組み合わせを扱う必要があるため、データ設計と学習アルゴリズムの最適化にはかなり時間をかけています。また、ユーザー入力から感情やニュアンスを読み取る自然言語処理の精度向上にも注力しました。

いきなり画面設計に入るのではなく、まずはロジック部分を丁寧にすり合わせてブラッシュアップを重ねたのもポイントです。

▲ Difyを用いたプロトタイピング
▲ 毎週の定例にて、実装箇所、未実装箇所のすり合わせを行いながら進行


──UX設計やサービスの強みにおいて、特にこだわった点を教えてください。

頭金様:香水の感想や改善点といったユーザーからのフィードバックを、AIが自動で収集・整理する仕組みも導入しました。この機能についても、「AIで対応できたら」と島田さんに相談したところ、すぐに対応していただき、効率よくユーザーの声を拾える形で実装してくださいました。実際、AI調香師の体験を通じて、多くのポジティブな声が寄せられています。たとえば「画期的で面白くて、香りのことがもっと好きになるサービスだと思っています。コロンさんと、サービスに関わるすべての方に感謝を伝えたいです」という温かなコメントや、 「推しが生きている世界のイメージ通りでした」といった、リアルな共感の声も届いています。さらに、「何回でも作りなおせるところが良いです。対面だと遠慮が出たり、推しについての説明が難しい場合がありますが、そこをあまり気にしなくてよかったので助かりました」
といった、AIならではの“気軽さ”や“自由度の高さ”を評価する声も目立ちました。

こうした生の声をもとに、今後の改善や新機能の検討にもつなげていく予定です。

そのほかにも、AI調香師にキャラクター「八峰コロン」を設定し、二次元コンテンツに親しんだ方に違和感なく楽しんでいただけるよう、会話トーンやビジュアルも設計しています。

香りの提案だけでなく、体験後の設計まで見据えたAI活用を実現できたのは、Polyscapeさんの柔軟な対応と理解の深さあってこそだと感じています。

──AI調香師の導入によって、どのような成果や変化がありましたか?

頭金様:AIを導入したことで、香水づくりのハードルは大きく下がったと感じています。実際、X(旧Twitter)上で実施したモニターキャンペーンでは、多くのファンの方が自作の香水や感想を投稿してくださり、SNS上でも大きな反響がありました。AI調香師そのものに対してもポジティブなフィードバックがユーザーから多数寄せられており、対話体験そのものがサービスの魅力になっていることを実感しています。

さらに、Polyscapeさん側でGoogle Analyticsのダッシュボードを整備していただいたことで、AI調香師経由でどれだけのオーダーが発生しているかといったデータも可視化され、継続的にトランザクションが生まれていることを確認できました。定性的な評価だけでなく、こうした定量的な視点でも成果が明確になっており、AIを通じた体験設計がしっかりと価値に結びついていると感じています。

また、リアル店舗でのワークショップにもAI調香師を取り入れたことで、小学生から大人まで幅広い層にご好評をいただいています。接客時間の効率化にもつながっており、店舗運営面でも良い影響が出ています。
他にも、短期間でサービスをリリースできたことで、開発コストを抑えながらスピーディーに新規事業を立ち上げることができました。従来の販売チャネルではアプローチしにくかった層とも接点を持てるようになり、新しい顧客の獲得にもつながっています。

開発フェーズを経てマーケティングフェーズへ。Polyscapeと挑むマーケティング戦略

──AI調香師「八峰コロン」は、今後どのような展開を予定されていますか?

頭金様:今後はAIの提案精度をさらに高めていくとともに、AI調香師を活用した新たなサービスの立ち上げも視野に入れています。まずは、実際の利用者のフィードバックを反映しながら機能改善を進め、より多くの方にこの体験を届けていくことが重要だと考えています。
Polyscapeさんには、開発だけではなく、マーケティングや広報戦略に至るまで幅広くご協力いただいており、構想段階から一貫して伴走していただける点に大きな信頼を寄せています。今後は、AIの分析力と人間の創造力を融合させた「共創モデル」の確立を目指していきたいと思います。

▲ Polyscapeのマーケ支援 により実現したVTuberさんの配信

AIは導入すること自体が目的ではなく、自社の価値提供をどう広げていくかが重要だと感じています。そのためには、技術力に加えて事業理解やコミュニケーション力に長けたパートナーが不可欠です。Polyscapeさんは、まさに「どうすれば実現できるか」を共に考えてくださる存在です。

今後も香りの領域にとどまらず、AIと人が協働する新たな価値創出に向けて、さまざまなチャレンジをご一緒できればと考えています。AIの活用に迷われている企業の方は、まず一度相談してみることをおすすめします。

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